有機物理化学研究室

光合成の光物理化学

図1には、植物の光合成の光反応が行われている現場を表しています。植物の葉を構成する葉肉細胞の中の、葉緑体という細胞内器官の中の、チラコイド膜という膜構造に光合成の光反応を行うタンパク質が埋め込まれています。植物の光合成では、光化学系II(PS II)と光化学系I(PS I)という2種類のタンパク質が、直列に繋がれた太陽電池のように働きます。すなわち、水から奪われた電子がPS II、チラコイド膜中のキノン分子、チトクロムb6fタンパク質を経由してPS Iへと流れ、最後にNADP+に渡されNADPHという物質が生成されます。電子を流す駆動力として、PS II、PS Iで吸収された光のエネルギーが利用されます。

Fig1_photosynthesis

図1


図2には、2011年に1.9Åという高い分解能で解明されたPS IIの結晶構造を示します。一つのPS IIあたり、35個のクロロフィルと2個のフェオフィチン、その他いくつかのカロテノイドという色素が結合しています。中心にある数個の色素は、光誘起電荷分離を担う反応中心を構成します。周囲にある多くのクロロフィルは、アンテナ色素として働き、吸収した光エネルギーを反応中心へと伝達します。

Fig1_photosynthesis

図2

図3には、光化学系に結合するクロロフィルのエネルギー準位を模式的に表しています。光化学系内でクロロフィルは非常に密に詰め込まれているため、各色素間には非常に強い電気的な相互作用が働きます。その結果、複数のクロロフィルの間で励起状態が量子力学的に広がった状態、非局在化した励起状態、を作ることが分かってきました。アンテナ色素は吸収した光エネルギーを反応中心へと渡すのですが、単純に隣の色素へエネルギーを渡すという描像(図3中段)は成り立たず、複数の色素で形成された非局在化した励起状態のうち、高いエネルギーの準位から低い準位へと緩和していく(図3下段)、というようなエネルギー移動の理解が必要となります。

Fig3_delocalizedExciton

図3

光合成タンパク質の構造が詳細に解明された現在、構造情報に立脚し量子力学的な効果も正確に取り込んで、光合成の光反応のダイナミクスを理解することが可能となりつつあります。そのような理解から、以下に挙げるような多くの未解明の謎を解明することを目指しています。

・ 光合成生物は、周囲の光環境に柔軟に応答してその性能を調節する機構を持っていることが知られています。しかしその分子機構ははっきりと分かっていません。結晶構造に立脚した光反応の理解を通して、調節機構を明らかにすることを目指しています。

・ アンテナ色素が、環境に応答して生体膜内を移動するという説があります。この説の直接的な検証は、タンパク質の移動を顕微鏡により実際に観測することでしょう。新しい極低温光学顕微鏡を開発し、このような課題に取り組んでいます。

・ 図2に示したような複雑で精密な分子構造が、生体内でどのように形成されるのかは、全く分かっていない謎です。なんとかこの謎を解く糸口をつかもうと、新開発の顕微鏡を使った研究を行っています。